ぺたぺた 床間へ。
鈴虫はりーりー、2階の寝室に横たわる弱った虫まで叫びかける。
いぃ……暑く、眠れない。
真昼にさんさん陽炎を焦がさんと蓄えられた地熱によって、安らぎの小夜は融解した。
少しでも冷えたチャンクを探してベットの上を俎板の蛸の如く畝り回る。
四肢や胸の凹凸に浮付く汗で茹だるようだ。
やる気さえあればいつだってシーツくらい干してやれる。
ただこの地域特有の塩入りの湿気にはさっぱりとしない。
潮風にでもあたりに行くとする。
スマホも鍵も持たぬ、短パンTシャツにピンパケの菊正。
新聞配達のカブがぶ ぶ ぶっと横を走り抜ける。風が心地よい。
海陸を一文字に分断する134号線で濡れたカップルとすれ違う。
そんな見知らぬ男女がよく居座る付近は避けつつ、流木に気をつけながら歩く。
あちあちで寝付けない夜は冷えた砂浜で横になる。
米櫃をひっぺり返したくあいに飛び散った星々が、白々しく輝いている。
寝て星を見ると見上げるのではなく、なんだか対等に目の前にいるみたいで、
だけど とても遠い。
回り誰も。しかし、うしみつの波間には、海に消えた人の顔が浮かぶらしいと。
波打ち際は静かに、さーさーと砂浜の穏やかな丘陵をいったりきたり。
白い泡沫が生まれて 消えていくのを想像させる。
日が顔を出す手前、波の様子を見て帰る。
にあーにあー猫に餌をやり、コーヒーとパンを腹にぶち込み、板を選び、入水する。
夏虫はいつまで泣いていただろうか。
2019.4.30 (6.6改訂)
きたる夏を思い返して
本稿は“小台マガジン23号(2019.8)”に掲載されています。
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